保全の芽生え(地権者の決意)

1975年、急激な住宅開発が進む中、閑静な市街地の一角で守り育ててきた豊かな湧水群・多様な動植物・地域の文化遺産などを後世に伝えるべく、地権者の齋藤家は「下田の杜の自然を守る会」を設立して地道に保全活動を始め、「杜」の一部を「柏市子どもの遊び場」「ボーイスカウト第5団野営場」などとして市民に開放しました。

 市民活動が始まり、行政が動く 

1994年、ホタルが棲む隣接低地の開発計画に対する酒井根・西山・東山3町会と地域住民を主とする緑地環境保全運動は行政を動かし、
1995年の有志による「下田の森自然公園友の会(通称:友の会)」結成は、市民参加による緑地の整備運営を提案し、地権者の全面協力のもと、自然環境保全と調査研究、学校教育における杜の活用など、
2020年に発展的に解散するまで先進的活動の中心的役割を担うこととなりました。

 市民と地権者と行政との協働 

1996年、保全計画の進め方について、地権者と柏市が基本合意。杜は、柏市緑の基本計画で「酒井根下田自然拠点」と位置付けられ、
1999年には一部1.7haが景観と生きものの多様性に配慮した「酒井根下田の森都市緑地」として市民に公開され、恒久的な保全への一歩となりました。

2000年、地域の3町会・友の会・地権者などによる「下田の森里山協議会」が発足して柏市から維持管理業務の一部を受託。
2016年には一般市民が参加できる開かれた組織への改正を経て活動プログラムを充実するなどして活動の輪を広げ、2018年に解散しました。
同年、新たに「下田の杜」を市民と地域社会で支える社会的使命と責任などを明確にした「NPO法人下田の杜里山フォーラム」を設立し、現在に至っています。

「下田の杜憲章」の制定 

2009年、柏市による「酒井根下田自然拠点保全計画策定懇話会」を開催し、「下田の杜」の保全のための理念・基本方針などについて話し合いを重ね、広く市民と共有するための「下田の杜憲章」を制定しました。

 物語は、つづく 

2009年、柏市と関係地権者は実施計画に合意して都市緑地は2.0haに拡大、
2021年にはさらに2.1haに再拡大。一方2009年に樹林地の一部1.5haを「酒井根特別緑地保全地区」に指定し、さらに2021年には樹林や生産緑地地区の畑を加えて2.5haに拡大指定しました。

現在「NPO法人下田の杜里山フォーラム」では、下田の杜全域の環境を保全する取り組みや、そこに生息する様々な生きものの調査研究などを通年で行っているほか、近隣小中学校・大学の教育の場として学習支援にも力を入れるとともに、文化遺産でもある野馬土手や古民家や民具の調査にも取り組んでいます。
しかし、「杜」の大部分は現在でも私有地のままであり、今後は全体の自然と文化遺産の公有地化を視野に、地権者と行政と私たちの協働をさらに進めて「杜」の恒久的な保全を目指します。