調査研究部会
調査研究部会は下田の杜全体の維持管理及び保全のための調査活動として、
①環境に係る調査実施、②保全のための法律や制度学習を行っています。
そして、各種調査をもとに保全に係る問題等を把握し、順応的な管理を行っています。
① 環境に係る調査
下田の杜里山フォーラムの調査研究活動として、湧水調査、植生の概況把握、タンポポ調査、希少植物の分布調査、野鳥や昆虫類の調査等の各種調査を行っています。
項目 | 調査内容 |
湧水調査 | 水温、水量、pH、CODを毎年夏調査し悪化の傾向がないか状況を把握しています。 (資料:湧水調査) |
植生の 概況把握 | 林床の相対照度調査や近年はナラ枯れの状況調査とその対応が主である。 (資料:ナラ枯れ状況) |
タンポポ 調査 | カントウタンポポ、セイヨウタンポポ、シロバナタンポポ、ハイブリッドの分布状況と数量を調査しています。外来種のセイヨウタンポポを駆除対象に活動しています。 (資料:環境指標としてのタンポポ) |
希少種の 分布調査 | 下田の杜には60数種の希少植物が分布しています。その主な種について分布状況と数量を調査し、数株程度の分布植物は圃場に移植し増殖に努めています。 (資料:希少植物について) |
野鳥や 昆虫類 の調査 | 下田の杜で観察できる野鳥65種をはじめトンボ、チョウ類その他昆虫等1500種以上を確認、撮影しています。 (資料:希少動物について) |
② 保全のための法律や制度の調査研究
豊かな自然や野馬土手など文化遺産を、地域の資源として保全活用するための法律や制度を学んでいます。
湧水調査
下田の杜湧水調査
生きものの生息地の基本的な構成要素は、食料、水、隠れ場所、生活空間とその適切な配置であるといわれています。
下田の杜の豊かな自然環境はその基本構成をみたしており、中でも水は谷津田地形の低地に湧水ポイントがたくさんあり、湧水のおかげで多様な生きものが生息できる環境が形成され、豊かな里山になっています。
水質調査は下田に生息する希少な動植物を含む多数の動植物を保全するために台地から湧き出た水が量・質ともに正常であるかどうかの現状を調べ、知ることにより問題があればその解決方法を見つけだすための調査です。
1997 年から 25 年間継続してその変化を調査しています。
調査内容は水温、水量、pH、COD の 4 項目です(pH、COD はパックテスト)。パックテストは、みんなでチュ-ブの色を比色表の上にのせて比色し、濃度を調べました。
・ 水温、水量に大きな変化は見られませんが周辺の宅地化による雨水の地下浸透量の減少の影響が今後出る可能性が考えられます。
・ パックテストの結果pH は 6.5~7.5 程度を示しており動植物に問題はないとわかりました。
・ COD は判断指標からみると自然観察池 2(デッキ池)は汚れた水、その他湧水地点はきれいから少し汚れた水の間くらいであるとわかりました。
以上、今年の調査でも生息地を脅かすような問題は見つかりませんでしたが、下田の杜を守っていくためには周辺の環境変化に十分注意が必要であることには変わりありません。
植生の概況把握
ナラ枯れ調査
ナラ枯れ木の配置図
タンポポ調査
環境指標としてのタンポポ
秋にタンポポを見つけたらそれはセイヨウタンポポです。どんな所で咲いていましたか?自然が残っているところでしたか、道路脇やあぜ道など人工的なところでしたか?
人の手が加わった人工的なところで多く見かけたと思います。
タンポポはその分布状況を調べることで、周辺環境の都市化の程度などを知ることができる指標として使われます。
タンポポ分布の指標から街を観察すると、カントウタンポポが繁茂している場所は人の手があまり加わらず自然との調和が図られている場所が多く、セイヨウタンポポが繁茂している場所は人の手が加わり自然が改変された人工的な環境であることがわかります。
こうした見方で私たちの街を観察して見てください。どれだけ自然が減少し都市化が進んでいるかがわかります。
下田の杜では東邦大学里山講座の総合学習参加学生の協力の下、タンポポ調査が 10 年以上継続されています。調査結果を今年の調査と 5 年前の調査結果を比較してみました。
タンポポ分布をみると在来のカントウタンポポは比較的安定した、人の手があまり入らない④東畑台地北側と⑦西畑に多く分布しています。
セイヨウタンポポは日当たりがよく人の手の入った(攪乱)①東畑台地南側(栗林)⑧バッタ広場や畑、水田周りに分布が多く見られ 5 年前とその分布エリアに変化はないようです。
東畑台地の南側(栗林)ではセイヨウタンポポの数に大きな変化はないのですがカントウタンポポの数は 5 年前の 1 割程度に減少しています。
これは近年、定期的に年数回草刈りが行われ、生育環境が攪乱されることよってカントウタンポポが減少し繁殖力が高く明るい環境を好むセイヨウタンポポが持続的に生育しているように思われます。
繁殖力が高いということでセイヨウタンポポがカントウタンポポに比べて優勢であると考えると、下田の杜のタンポポはこの 10 年で大部分がセイヨウタンポポばかりになってしまうはずですが,実際にはそうなっていません。
生育条件によっては,カントウタンポポの方が優勢になることがある(④⑦のように)、つまり、タンポポはその環境条件に応じて「すみ分け」を行っているのではないだろうかと考えられています。(北田よ)
希少植物について
下田の杜では約300種の山野草が確認されています。
2012年から5年間かけて「どこに、何が、どのように生育しているか」を調べ、戸籍簿を作りました。
その後も新たに追加される種が見つかっています。
下田の杜では保護対象山野草を、環境省・千葉県および柏市が「絶滅危惧種」または「要保護種」に指定している種と、「下田の杜特有の希少種」から選定しました。
- 千葉県の保護上重要な野生生物ー千葉県レッドデーターブックー植物・菌類編-(2009年版ベース)
- 柏市自然環境調査報告書
- 下田の杜の山野草の植生特性を生かすため、下田の杜独自の優先保護種の選定
調査時点で保護対象山野草は18科67種ありました。
特徴を見てみると
- 下田の杜には、柏市が選定した要保護種176種の内の62種(35%)が生息しており、植生の多様さと豊かさが判ります。
- 特に、柏市内の他のホットスポットと比べた下田の杜の植生特性は、スミレ科(下田9種/柏市全体11種)、ラン科(8種/11種)、ユリ科(11種/15種)、キンポウゲ科(5種/7種)の生息数の多さに特徴づけられます。
- 上記67種の中には、地権者(斎藤家)の先祖によって持ち込まれた種が11種含まれています。
この11種の移入種は、いずれも貴重な種であり、既に数十年を経て下田の杜の山野草の生息環境に何ら影響することなく自然と同化していますので、その点を認識した上で、今回の優先保護対象種に選定しています。
これら植物について、①絶滅危機の回避 ②実生の増殖 ③自生地への復元を目指して活動しています。
希少動物について
下田の杜では1,500種類以上の動物が確認、撮影されていますが、保護上重要な野生生物としては67種類が確認されています。
千葉県の保護上重要な野生生物(生き物編)(2011年版ベース)
野鳥26種 | サシバ、トラツグミ、キビタキ、コサメビタキ、サンコウチョウ、チュウサギ、オオタカ、キセキレイなど |
トンボ9種 | ヒメアカネ、アオヤンマ、ハラビロトンボ、アオイトトンボ、ウチワヤンマ、サラサヤンマなど |
チョウ8種 | オオウラギンスジヒョウモン、ミズイロオナガシジミ、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミドリヒョウモンなど |
その他昆虫、両生類等24種 | コハンミョウ、ベッコウヒラタシデムシ、オオセンチコガネ、ヤマトタマムシ コガネグモ、オオツノカメムシ、ニホントカゲ、ニホンヤモリ、トウキョウダルマガエルなど |